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事例: 認知した海外にいる娘への相続が悩ましい・・・

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A(独身)には内縁の妻B(外国人)がいて、二人の間には娘C(幼児)がおり、AはCを認知しました。A自身は一人息子で、父はすでに亡くなっており、その後は高齢の母と同居中で、一方、BCはBの母国に居住したままです。

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自宅は母とAの共有であり、他は預金などです。Aからの相談とは、母や自身に何かあったときに備え、娘への相続をどうすべきか、でした。というのも、内縁の妻Bには浪費癖があり、正式に結婚しない理由の一つはそれです。また現地には大勢の親族がいるため、単純に娘に相続させるだけでは、事実上、親族間に財産が散逸してしまい、何も残らないだろうと想像されるのです。

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悩んだあげくにAが考えた方策は、Cを母の養女にすること、でした。自身の健康に必ずしも自信がなく、万一のときには後を母に託さなければならないから・・・というのです。

しかしこの方策、目的と手段の関係として、どうでしょうか?全く無意味、ともいえません。可能性として、なくはないのですから。ただ、一般論としては母親の方が先である可能性が高く、合理的な対策となり得るでしょうか。

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解決のポイント

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おそらく、ここでの本質的な問題は、海をはさんで娘の監護をどう実効的に行い得るか、ではなく、娘の成長・自活を経済的に、どうすれば的確に支援できるか、にあると思われます。だとすれば、上述のような養子縁組ではなく、自身の死後に相続財産の浪費・散逸をいかに防止するか、を考えるのが現実的でしょう。

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(1) まず、娘Cを日本に呼び寄せることは、入管手続上は比較的容易と思われます。ただ、本人がその是非を弁識し得る年齢であり、それを望むか、実際上日本での養育が可能か、Bが同意するか、などが先決問題とはなります。

(2) 娘Cにとって、かの地での生活が本人の幸福につながるとすれば、相続財産をどうしておくべきかの問題となり、家族信託の利用が選択肢の一つとして考えられます。

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家族信託による対策案と作業

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信託には、

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(a) 財産の利益を享受する権利と

(b) 財産を管理・処分する機能

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とを分別できる、という利点があります。

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例えば、

(1)(母と)Aが委託者となり、不動産と預金を信託財産とし、信用できる方(受託者、第三者も可)に信託し、娘Cを受益者とする信託契約を締結します。

(2) Aが存命の間はA自身が受託者の地位につくこととし、預金から毎月、海外送金します。

(3) 母とAの両方が死亡した後は、第三者が受託者となって海外送金を引継ぐこととし、この際、Cの就学に伴う費用を契約書や請求書で毎回、確認することとします。状況次第で受託者の判断により、ある程度の範囲で送金額を増減できる条項を定めておくなども可能です。

(4) Cが大学を卒業し、就職するなど自活することができるようになった後、または就学中に預金が不足するようになった際は、受託者の判断で不動産を処分・換価して預金にプールする、などの条項もあっていいと思われます。

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仮にAが遺言書を残し、具体的に遺言執行者(もちろん、就任についての事前の同意が不可欠です)を定めておいたとしても、Cが財産の処分権そのものを相続発生と同時に取得してしまうと、おそらく、その親権者Bの事実行為により、浪費・散財の危険性が現実化してしまいます。そこで、上述のような信託スキームにより、当面は定期的な一定限度の利益の享受に留めさせ、信用できる第三者がCの判断力を見極めた上で、残余財産の管理・処分権をもCに解放する(信託契約の解除条件とする)、という考え方なのです。

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以上を各当事者にご説明の上、十分にご理解をいただければ、文案作成のご相談へと進みます。文案が定まれば、信託に強い公証人さんと協議の上、(文案作成者が帯同して)当事者に公証役場に足を運んでいただき、公正証書にしていただくことになります。

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引続き、信託の応用方法をご案内してゆきたいと思います。

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⇒ 家族信託?どう使う?②

⇒ 家族信託?どう使う?③

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「私の履歴書」他(相続・事業承継・M&A以外のブログ)も読む

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ご参考