中小M&Aを具体的にどう進めるか。まずは選択肢と準備の問題を見ます。

目次

1.基本的方向性

具体的手続の詳細に入る前に、もう一度、事業承継とM&Aの全体像から俯瞰し直してみましょう。M&A、または第三者承継を意識した場合、ゴーイングコンサーン(継続企業体)の状態で譲渡するのが、対価を極大化するほぼ唯一の方法となります。なぜなら、「ヒト」「モノ」「カネ」の複合体である企業がその価値を順調に増大できるのは、これら三要素が有機的に機能した場合であり、単に現時点の「モノ」としての静態的価値を換価するだけでは、見るべき金額にならないのが普通だからです。以前のブログ、「エグジットプラン 「会社の終活」①」(下記リンク)で、廃業の例で見たように、

「・・・工場や製造設備、あるいは倉庫を保有、などとなると、事情は全く違ってきます。不動産仲介、その他の業者に見積もらせて買い取らせればいいではないか、とお考えかもしれませんが、駅近のオフィスビルや戸建て・マンションと異なり、特定の仕様の工場、製造設備、倉庫となると、「マーケット」はない、と考えなければなりません。つまり、売れたとしても何掛けかの割引価値しか付かないのが普通です。そのまま使う、という同業種の買い手をみつけるコストとリスクがあり、だめならスクラップとしての価値で我慢せざるを得ないからです。それも急ぎで、となれば、「強制売却価格」として、更に割引きとなります・・・」

といった事情があるからです。上の図でいうと、可能な限り右上方向へともってゆきたい訳です。

2.準備の手順

となりますと、オーナー経営者様のお心積もりとしては、かなり息の長い準備を覚悟することも必要となります。

何より、思い立ってすぐさま、側近たちにそのお考えを伝えるのには、躊躇されることと思われます。(「近々、会社を他人に売り渡すことにしたから、3年後、5年後を見据えて更なる業績の向上に協力してくれ」と言う訳にもゆきません。聞いた彼ら彼女らは、まず、自身の行く末を案じます。)

つまり、表向きは従来同様、「引続き業績向上に努めよう。役職員とその家族の今後の幸せのためには、間違いなくこれこそが共通目標だ」との建前でゆくしか、打つべき手はありません。あとは、景気などの客観情勢を見計らいながら、(信頼できる人に相談しつつ?)売却時期を見定めることになります。

3.「売り手」の味方

こうしてみると、M&Aの準備段階には特別の手順がある訳でもなく、企業価値の増大、あるいは極大化という、一般的な意味での経営課題そのものに過ぎない、ということになります。だからこそ、「中小企業100万社廃業時代」という日本の現状が一層、危機的といえるのです。中小企業経営者の2/3が70歳以上であるという今日、時間的余裕は限られています。可能な限り、直ちに心づもりを固める必要があります。

その上で、今後数年にわたる「事業計画」の策定と、その社内での共有が成功のカギとなります。オーナー経営者様お一人で可能でしょうか。もし手助けが必要な状況でしたら、まずは仲介業者を探すなどではなく、経営改善のための右腕、または頼りになる相談相手を探すことこそ、最優先と思われます。できれば、専門別に複数の方を頼るよりも、大方の問題を全体として相談できる、経験豊富な方にお心当たりがあればベストです。前回ブログ、「「仲介」の実像 中小M&A①」で見たように、あくまで「売り手」の味方になってくれる方です。

4.人材育成

頼れる相談相手と並び、どうしても欠かせないのが、「人材育成」の問題です。

そもそもオーナー経営者様が、単なる廃業でなくM&Aを選ばれる根本的な理由は、何でしょうか。

老後、ひいては相続に備え、手元にまとまった現金を確保しておきたい。役職員とその家族のことを考えると、可能な限り彼らの雇用を維持する方向性で問題解決したい。このようなものが一般的といわれます。実は、この二つとも、会社の経営基盤を強化することにより解決し得る課題であり、そのためには、「ヒト」「モノ」「カネ」の三要素のうち、何よりも「ヒト」の強化が不可欠です。他社や一般投資家にとって魅力的な会社と映るようにするための具体策も、究極、この一点に集約されるといえるでしょう。

親族承継を断念され、役職員による承継(MBOやEBO)も現実的ではない、とのご判断の場合でも、しかるべき経営者を迎えることさえできれば現状と同様、あるいは一層の経営改善も見込める、といった組織造りをしておくことこそ、次への有効なステップとなります。いやむしろ、これなしには理想的なM&Aの実現は不可能、というべきでしょうか。

次回「「包括」承継とは 中小M&A③」に続く