「死後離婚」したい、あるいは夫と同じ墓に入りたくない、というご相談が多くなっています。

目次

事例 離婚届を出す前に、夫に先立たれた

・ご相談者(奥様)は夫と長年にわたり不仲。一人娘の結婚までは、との我慢もついに限界に達し、本格的に離婚話を始めてようやく合意できた矢先、届を出す前に夫に先立たれてしまいました。

・夫は三男でしたが、二男はかなり以前に亡くなり、また長男は昨年末に亡くなったばかりで、相続手続もまだ完了していません。更にその葬儀代は、奥様の娘さんが立替えたままです。

・亡くなった長男には二女があり、いずれも法律家ですが、生前から父親(長男)とは不仲で、ほとんど行き来がありませんでした。

・奥様は、夫の葬儀の場で親類縁者から、「先祖代々の墓は今後、あなたが面倒をみてくれ」といわれ、困惑しています。元々、協議離婚する筈であり、墓守りや、まして自身がそこに入るなど、とんでもないとの思いです。

1.「死後離婚」とは?

ある年の日本全体の結婚と離婚の届出件数を比較すると、今や3:1という状況です。また「熟年離婚」という用語が一般的に使われるようになってから、かなりの年月が経ちました。

こうした中で、ここのところ使われるようになったのが「死後離婚」なる用語です。その実体は、法律用語というよりは、配偶者の血族と縁を切りたいとの思いの深さを「情緒的」に表わした表現、といえるでしょう。関連の論点を整理します。

(1) 法律上の「離婚」は、配偶者双方が生存中でなければ、できない

(2) 配偶者に死に別れた段階で、生存配偶者と、死亡配偶者の血族(=生存配偶者の「姻族」)との関係に変動はない

(3) 生存配偶者が、死亡配偶者の血族(=生存配偶者の「姻族」)との法律上の関係を断つには、生存配偶者から市区町村に「姻族関係終了届」を提出する必要がある

この(3)の「姻族関係終了届」の提出の手続を、俗に「死後離婚」と称している訳です。

2.「死後離婚」(「姻族関係終了届」の提出)を意識したときの検討事項

「死後離婚」(「姻族関係終了届」の提出)を意識した際の検討事項は、おおよそ以下のようなものとなります。

(1) 義父・義母の介護から解放されたい

夫の死後は同居の義父母の介護から解放されたいとの思いで、別居するのと相前後して「死後離婚」するというなら、相応の意義があります。ただ義父母から(介護と引き換えに、という意味合いで)多額の贈与を受けていた、という場合には、訴えを提起される可能性も考えておく必要があります。

(2) 姻族の先祖代々の墓から解放されたい

墓守りそのものの「法的義務」というものは、現行法の下では存在しません。お墓に入ることについても同様です(そもそも憲法により、信教の自由が認められています)。ただ今回の事例のような場合には、「死後離婚」に踏み切ることにより、姻族に対しての文字どおりの「象徴的」な意義があるかもしれません。

また、姻族からの「離脱」をより強く意思表示したいなら、更に市区町村に「復氏届」を提出することにより、旧姓に戻すのもよいかもしれません。

(3) 相続

「死後離婚」と相続との間に、法的な因果関係・手続関係はありません。そもそも今回の事例のような場合、ご主人の死亡の時点で奥様と娘さんの相続は法的に(自動的に)成立しており、その後の手続はそれを最終形にするためのものに過ぎず、これに必要な請求や申請も、相続の成立そのものについてのものではありません。

(4) 再婚

相続と同様、「死後離婚」との間に法的な因果関係・手続関係はありません。ただ、夫の死亡後に再婚したとしても、それと同時に亡夫に伴う姻族関係が解消する訳ではなく、新旧の姻族関係が併存することとなります。従って、この状況で前述のような「死後離婚」の必要性を感ずるならば、その届出手続を踏む必要があります。

(5)「死後離婚」(「姻族関係終了届」の提出)によるデメリット

旧姻族と顔を合わせなければならない状況が想定される場合に、その心の準備ができているか、といったものでしょうか。なお、「死後離婚」の取消し・撤回は原則、できません。

3.その他

(1) 相続手続への支障

前述2.(3)のように、相続を最終形にする手続であり、本事例の場合の当事者(法定相続人)は奥様と娘さんだけですので、旧姻族の協力は不要であり、問題ありません。

唯一の可能性としては、旧姻族のどなたかによる被相続人への「特別の寄与」があった場合ですが、これも本事例では考えにくいといえます。

(2) 葬儀費用の請求

娘さんが立替えている亡夫の兄(長男)の葬儀費用については、通常は相続手続の中で精算されるものですが、無視されたなら、当然、相続人に請求できます(民法702条〔有益費〕または同703条〔不当利得〕)。

万一、相手方が支払請求に応じないようであれば、

・配達証明付内容証明郵便(確定日付を伴う請求書)を送付する

・簡易裁判所に申立てて支払督促を送達してもらう

などの手段があります。なお、このように後日の手間を増やさないためにも、「死後離婚」の手続に入るのは、(2)の精算が完了した後にするのが無難です。