同性婚が法的に認められる国・地域が徐々に増えてきました。日本では、今のところ具体的な立法論すら聞かれませんが、方法はないのでしょうか。

目次

事例 女性同士のカップルが、子育てや相続、終活を意識する

・AさんとBさんはカップルで、Aさん宅で同居を始めて5年近くが経ちました。

・Aさんは大学卒業後、東京にある外資系のIT会社に就職して十数年になります。妹との二人姉妹で、妹は郷里で両親と同居しています。
就職後数年で結婚しましたが、しばらくして夫のDVが原因で別居状態となり、10年近くかかってようやく協議離婚が成立し、当初の共有から自身の単独名義になったマンションで、引続き暮らしています。ローンはまだ残っていますが、返せない額ではありません。
勤務先はAさんの状況を理解してくれており、社内の福利厚生制度上は、Bさんが配偶者であるのとほぼ同等の処遇をしてくれています。両親と妹も事情は知っていますが、共感を示すところまでは至っていない状況です。

・Bさんは大学を卒業後、新卒として数年間勤務したメーカーを退職し、その後は派遣社員として複数の会社で働いてきました。勤務先では仕事のできる人材として頼りにされていますが、正社員にならないか、との誘いは断ってきました。
その間にAさんと知り合い、Aさんのマンションで暮らしています。所属の派遣元はLGBTについて理解のある会社で、人事には事情を説明し、派遣先には知れないように配慮してくれています。
一人娘であり、郷里では母が病気で数年前に亡くなり、父が一人で暮らしています。Aさんのことは、まだ話せずにいます(友人とルームシェアしている、と言ってあります)。

・AさんBさんは、日常生活に多少の不便を感ずることはあるものの、おおむね現在の状況に満足しています。ただ、二人のいずれか、あるいは家族に不幸があった際のことが気にかかるのと、どちらからともなく、子育てをしたいとの想いが募りつつある今日この頃です。なお、AさんがBさんを養女とする養子縁組をするつもりはありません。

1.今日の日本で「同性婚」はどこまで実現できるのか?(その1、パートナーシップ)

(1) 背景 法令整備の環境は、ほぼない

まず、ここでのタイトルは「同性婚」となっていますが、法制度上のものではない、の意味であることを申し上げておく必要があります。
憲法第24条は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、」と定めており、一般的な解釈論としては、不可能です。

それでは、ここで「不可能」というのは「禁止」なのか、という点はどうでしょうか。これは、否、ということになります。
2015年に東京都渋谷区/世田谷区で開始した「同性パートナーシップ証明制度」(条例/要綱による)や、諸外国での法改正の動きを見ても、これは明らかでしょう。
とすると日本の現状は、同性同士では婚姻届の受理を拒否される状態である、なぜならそれを認める法的根拠がないから、という状態に留まる、といえる訳です。つまり、法的な内容の「婚姻」と行政は認めないが、私的自治(契約・合意)の範囲内で、可能な限りの権利義務関係を構築することそのものは、当然できる、という意味です。

それでは以下、本事例の場合(AさんBさんのケース)に、現状の日本の法制度下で、どこまでが可能かを考えてみます。

(2) 同性パートナーシップ証明書

上記「事例」の項で触れたように、同性カップルを、事実婚の一類型として社内の福利厚生制度の適用対象として認め、処遇をする企業(「LGBTフレンドリー企業」)は着実に増えてきています。このような企業内の申請手続や、業者との契約の際などに添付書面として利用されるようになったのが、「同性パートナーシップ証明書」(自治体により、名称は若干異なります)です。

(3) 同性パートナーシップ合意契約公正証書

前項の「同性パートナーシップ証明書」を自治体に申請する際に添付しなければならないものとしては、大体は公的証明書類です。ただ唯一、最初に証明書発行を始めた東京都渋谷区だけは、更にこの表題の「(同性パートナーシップ)合意契約公正証書」と、「任意後見契約公正証書」をも要求します。
渋谷区は、世田谷区と並んでこの種の証明制度を最初に始めた自治体ですが、他の自治体と異なるのは、要綱ではなく条例で細目まで定めた点です。つまり、区議会でそこまでを法令として「立法」した訳です。おそらくは、議会に対する説明の必要性と、他の自治体に先駆けて制度を創設することより、慎重さを要するとの意識から、そこまで要求することになったものと思われます。
しかし、その後に追随した全国の各自治体は、いずれも世田谷区方式の手続(要綱を根拠に、両公正証書を要求しない)を採用しています。当初、この制度を「画期的」と思ったカップルの中には、渋谷区に引っ越そうとされた方々もおられるといわれますが、上記の経緯から、より多くの手数と費用をかけることになる渋谷区方式にこだわる方の数は減っているのではないかと思われます。

それでは、本項表題の「同性パートナーシップ合意契約公正証書」は今やあまり意味がないのか、というと、そうとも言い切れません。
この契約書は、いわゆる「婚前契約書」の同性パートナーシップ版といえます。「婚前契約書」とは、いわゆる米国ばりの、結婚するにあたっての両者の意思を書面化しておく、という性質の契約書です。旧来の日本人的感覚からすると、そこまで「約束」感を強調しなくとも・・・というイメージでしょうが、婚姻中に争いとなり、また離婚話になった際に重要な証拠となるものなので、日本でも、「パートナー」意識の強い男女が締結する傾向にあります。更に、このような「証拠」性を確実にするため、これを公正証書(公証人さんに認証してもらった契約書)にしておく場合が多いのが現状です。

考えてみれば、婚姻や夫婦関係というものには、長い歴史とその変遷を経て築かれてきた、複雑な内容の法的・事実的な権利義務関係が刻み込まれている訳です。ただ多くの人々にとって、複雑ながらも、その内容が一般的におおむね共通のものとして認識されているが故に、あらかじめ改めて書面を交わさなくとも・・・となっているに過ぎません。それが証拠に、法令を見ても夫婦関係の条文は極めて少なく、これについて生じた調停や裁判は、慣習法や判例に照らして判断される割合が多いのが実情です。

そうしてみると、そのような社会一般の共通認識や慣習法、判例などが少ない「同性パートナーシップ」に、合意内容の明確化・書面化の必要性が高いのも道理といえます。いわば、「法」がほぼない以上、「契約」で対応せざるを得ない、という訳です。また、法社会の構造として、何もかもまず立法を待ってコトを起こそうとする日本と、すべからく個別の契約で詳細まで縛ろうとする米国の違いを考えれば、「同性パートナーシップ合意契約書」の原型である「婚前契約書」が、米国でまず普及し始めたというのも理解できます。

このような訳で、現行の法制度下では(必要に応じて)なにかと説明せざるを得ない関係であることを覚悟し、またこの機会にお互いの考えを確認し合う、という意味合いも込めて、合意契約書を作ってみるのは意義あることといえます。何より、事あるごとに口頭でいちいち説明することになるよりは得策、との実利性があります。

2.今日の日本で「同性婚」はどこまで実現できるのか?(その2、具体的内容)

さて、大枠としては前項1.の「パートナーシップ」のあり方なのですが、前述のように、既存の法的枠組がない分、その内容は個々に、しかもある程度詳細に定めておく必要性があります。

(1) 目的
パートナー同士が法律上の夫婦に準ずる関係を維持することの確認他、相互の愛情・尊重、信頼関係の維持など

(2) 権利義務
同居・協力・扶助・貞操、生活費の分担、違約金の定めなど

(3) 財産管理
収入支出の他、貯蓄・不動産等についての共有・別産、負担方法など

(4) 養育
連れ子や里子に関する扶養・教育など*

(5) 医療・療養看護
看護者としてパートナーを指定すること、診断結果・治療方針を聴く権限の委任など**

(6) 遺贈
配偶者・血族との場合の相続と同様の結果を確保するため、パートナーに財産を遺贈する旨の遺言書を作成すること、その際の各々の血族との優先関係、分割方法・割合、など

(7) 解除
資産処分・精算の方法など

なお、以上のうち(5)と(6)については、一般に、別途の意思表示を要します。***

* 本事例では、養子縁組によって里子を育てることが主な検討課題となりますが、現行法下では、特別養子縁組や共同親権とするためのハードルは極めて高い状況です。

** 同性カップルの大きな悩みの一つは、パートナーが病気になり、あるいはケガを負った場合に、担当医から診断結果や治療方針を聴くことが容易でないことである、といわれます。遠方から来た家族・親族には伝えてくれても、最も身近で、体調も熟知しているパートナーが「他人」として疎外されてしまうのは、どう考えても理不尽なのですが、残念ながらこれが現在の法的現実です。これは、延いては互いの老後のケアを考えた際に大きな不安につながるもので、深刻です。ご本人が意思表示できなくなった際の治療方針や手術計画への同意権については、更に大きな障害が控えており、早くから慎重に準備を進めておく必要があります。

*** 療養看護の委任に関する書面・医療における事前指示書・医療に関する意思表示書、遺言書・遺言執行引受予諾契約書・信託契約書など。

3.その他

(1) 任意後見契約

前項2.の(2)の権利義務のうち、相互扶助という観点からは、一般に、各々が任意後見契約を結ぶ方法を選択するケースが多くなっています。内容としては、主に広い意味での認知症を想定したものであり、もう一方のパートナーに過度の負担とならないよう、更に残されたパートナーが不安なく生活できるよう、などの目的を実現するための建付けを工夫します。

特に財産管理・遺贈については、適宜、福祉型信託や任意後見支援型信託を応用するなどの工夫も考えられます。状況を考えると、最終、いずれも公正証書にするのが望ましいといえます。

(2) 遺言書

各々が、単独で残します。状況を考えると、最終、公正証書にするのが望ましいといえます。他に、遺言代用信託や遺産分割型信託を利用する方法も考えられます。

(3) 死後事務委任契約

お互いに、万一のことがあった場合、法律婚の場合以上に紛議になる可能性がありますので、こちらも手当てしておくことが望まれます。葬儀・埋葬その他、資産整理・処分などについて、もう一方のパートナーが受任する、あるいは信頼できる第三者に委任するなどですが、後者の場合は相手方への事前の相談、承諾のとり付けが必要です。

(4) 信託契約

パートナーの一方、または双方の認知症発症や、万一の場合に備え、生前・死後の財産管理の手法として活用する方法があります。

一般的には、両パートナーが健常なうちに相応の資産を信託し、各々を受益者として、他方パートナー、および/または信頼できる第三者(事前同意が必要)を受託者とします。
生前は信託財産の運用益、取り崩し、または担保に供しての借入金(リバースモーゲージなど)により生活し、死後は信託財産の残存部分が他方パートナーに遺贈される、という仕組みを工夫します。できれば、生前に各々の法定相続人と、信託外財産の相続方法・割合について基本合意しておくのが望ましいといえますが、合意できなければ、遺留分を意識した割り振りにしておく、なども検討します。

もちろん、最終どちらかの団体に寄付、などの内容とすることも可能です。

(5) 立法論の礎としても

冒頭記述のとおり、この問題についての日本の法整備は、ほとんど進んでいません。
これを待ってはおれない、というのが、このブログで検討した「限度」の議論なのですが、だからといって、社会運動を通じた法整備の要求を完全に諦めてしまうわけにもゆきません。むしろ、以上で見てきたような個々の契約関係による対応例が増えてくることにより、社会全体の意識が変わってくるのを待つ、という意義は、決して小さくないものと思われます。