前回は「ヒト」の問題を深堀りしました。今回は、残る「モノ」「カネ」にフォーカスします。ズバリ、「補助金戦略」です!

 

目次

事例 「事業承継」に動き出した後継者。今後の事業計画は?

さあ、後継者の心構えは固まりました。
次のステップは、何でしょうか?

取引先への挨拶?メインバンクへの挨拶?ちょっと待ってください。

「宜しくお願いします」・・・  もちろん、挨拶そのものは、そんなところでしょうが、先立つモノが必要では?

創業者からの初の代替わりです。周囲のステークホルダーの皆さんが、不安になって当然では?先ずは、今後の事業展開についての展望、あるいは事業計画・経営方針の策定があるべきで、挨拶回りは、それからではありませんか。

くれぐれも、大企業ではないのです。企画部が中期経営計画を策定済で、また決算予想も公表済であって、何よりも新経営者の「顔出し」が先決、「挨拶漏れ」の防止が絶対命題、という状況では「ない」のです。今後どうやってゆくつもりか、肝心な「それ」を表明できなくては、ただ挨拶だけでは、相手様も困ってしまいます。

1.事業計画・・・ ただの「お題目」に終わらせないために

「事業計画書」というと、起業に際して作成するもの、というイメージが強いかもしれません。

しかし事業承継は、何といっても経営者の交代ですから、当然ながら会社にとっては極めて大きなイベントとなります。従来事業を従来どおり続ける、だけでは納得してもらえない局面は、少なくないと思われます。典型的なのは、メインバンクです。状況(その時点の経済・金融環境など)によっては、これを機会に既存融資の返済計画を要求される、などの可能性は大いにあり得ます。

取引先様にしても、売掛債権の管理・回収のみならず、今後の取引方針の見直しという観点からも、大きな利害関係となるところでしょう。ここは、これを機会に大きな展望を示す必要がありそうです。

実は、これは他社の利害関係からやむを得ず、だけでもないといえるのです。他には、「公的制度の活用」という、積極面での切り口です。例としては、「事業承継補助金」や「ものづくり補助金」の活用などが考えられます。

2.補助金の活用を考える

・前々回のブログ「経営者保証と事業リスク 事業承継③」で触れたように、今後10年ほどのうちに最悪、日本の中小企業で最大100万社以上が廃業し、数百万人の雇用と20兆円以上のGDPが失われかねない、という危機に瀕しています。

国はこれによる税収減をなんとか防止・緩和しようと、

① 事業承継税制の「異次元緩和」(新事業承継税制)による贈与税・相続税の納税猶予

② 様々な補助金・助成金の創設・拡充

などにより、躍起になって様々な施策を打ちつつあるところに、今回のコロナ禍が追い打ちをかけました。なお、このコロナ禍に対する給付金については、おおむねヤマを越えつつあるかと思われますので、ここでは触れません。

・さて、上記①の特例を受けるためには「特例承継計画」という申請書を作成し、提出する必要があります。これは、簡単な経営計画を策定し、メインバンク等からもらった経営改善アドバイスをまとめて記載する、といった内容の書類です。

・もう一方の②についても、所定の申請書の作成が必要ですが、その主たる内容は、これら公金を受領後に設備投資等を行った結果、数年かけて経営を改善する(生産性の向上、賃上げなど)という計画です。

・つまり、①と②のいずれについても、広い意味での(事業承継を前提とした)「事業計画」を策定することになる点は同じな訳で、実はこれは、前述1.に記した、承継後のメインバンク等に向けての説明資料そのものといってもいい内容なのです。ということは、説明資料作成作業の結果として、いずれも「ついで」に済ませることができるということでして、折角なら一回の作業の結果として、その後に続く毎回の説明に使え、もらえるおカネはもらい、政府(経産省)からも取引先からもより信用してもらえるなど、新経営体制の基盤固めに「一粒で二度も三度もおいしい」効果を期待できる、という訳です。

3.コロナ禍の今こそ!

・以前のここでのブログ、「コロナ禍を生かす!「自社株対策」 事業承継①」で見たように、生前贈与によるにせよ、相続によるにせよ、後継者側が要する資金手当ての額は、このコロナ禍による会社業績の低迷を「逆レバ」にして、相当に圧縮することが可能です。つまり、将来の利払い・返済負担を一気に軽減する千載一遇の好機なのです。

・コロナ禍については、それだけでなく、上述の補助金申請にとっても、今後の事業計画策定について一見困難な要素に見えるかもしれませんが、むしろ結論は逆です。つまり、今期・来季の「発射台」(事業実績)が十分に低い分、補助金受領・設備投資等に続く数年間に生産性の向上を見込む筋書き(将来業績見込)は、大いに書き易くなったとみるべきです。いわゆる「成長率のゲタ」を履いて出発できる訳です。ここ10~20年に一度とも見るべき好機を、むざむざ逃す手はありません。

・それだけではありません。「ものづくり補助金」だけを見ても、今期はコロナ禍対応もあり、(3年度予算の)単年度換算で2,200億円という膨大な予算が組まれています。来春に向けての今こそが、チャンスなのです(金額最大1,000万円、補助率最大2/3、特別枠なら3/4)。なお、代表者の交代は、同補助金の採択審査の際、加点要素として認定してもらえる余地があります。

・戻り需要による回復トレンドを見込んだこの機に、後継体制に向けての筋書きを着々と策定してみてはいかがでしょうか。