「承継」とは? 事業承継④

事業承継について様々な論点を見てきましたが、今回は、より根本的な問題として、そもそも「承継」とは?を問います。
目次
事例 70代を迎え、「事業承継」に悩むオーナー社長様。どこでボタンを掛け違ったのでしょうか?
引続き、前回のブログ(経営者保証と事業リスク 事業承継③)までと同じ事例により、70代に達したオーナー社長様が、未だ後継者様選びに目途が立たないというケースで見てみましょう。
前回ブログの「2.「経営者保証」の問題性」で見たように、中小企業庁金融課の調査によると、ご高齢(70歳以上)の中小企業経営者様の半数が「後継者未定」とおっしゃる中で、その2割強が、ご自身として後継者様に、と見ておられたお相手様から会社の承継を断わられており、更にそのうち6割が、「経営者保証」(個人保証)が付いていることを、その断わる理由として挙げている、という実情がございます。
どうすればいいのでしょうか?あるいは、どうすればよかったのでしょうか?
1.相続と事業承継
この二つは、オーナー会社の社長様が終活を考える際の二大テーマであるため、同列に論じられることが多いものですが、ところで、そもそもこれらは「同列」の問題なのでしょうか?
これはおそらく誤解で、その誤解の原因は、これら二つの「換価価値」の面ばかりが注目され易いことによる、といえるでしょう。前回までの本稿の展開が正にそうなので、逆説的ではあるのですが、
(1) 一般的な「相続」の対象が「モノ」と「カネ」であり、発生直後のスポットとしての価値の問題として捉えられ易いのに対し、
(2) 事業承継の方は、「株式」や「持分」の移転というよりも、後継者の育成・支援という、「ヒト」の問題の方が圧倒的に重い
というように、互いに対極的な位置関係にあり、この実態を見据えることが欠かせません。
2.承継の「工程表」
・オーナー経営者の皆様は、(当然ともいえるのですが、)一般の中高年者よりもアクティヴで、ご健康な場合が多い、と感じます。上述の「事例」で再び引用した中小企業庁の調査結果は、一面でこれを裏付けるものともいえる訳ですが、他面、多くのオーナー様が、70歳を機にようやく承継を意識し始める傾向があることをも示唆しています。これも繰り返しになってしまいますが、こういった背景からも、日本では事業承継が相続と並行して検討されがちである、といえそうです。
・しかし、前項で見たように、分配が比較的容易な「モノ」や「カネ」の相続に対し、事業承継はその大方が「ヒト」の問題である分、より長い準備期間を要します。後継者の育成の問題は当然ですが、これを支える組織としての会社の体制づくりも、要は人の育成(および採用)の問題といえます。
・やはり、アラセヴ(~70~)にして後継者の育成に本格着手、というのでは、遅すぎないでしょうか。経営者お一人、また事業基盤人材を少なくとも数名育てるのに、おそらくは10年。仮に、準備的な工程が済んでいたとしても、最短で5年はかかる、というのが一般的でしょう。
・巷間、「1年で事業承継を完了します」などと「豪語」するコンサルもないではないですが、それはあくまで経理処理・事務手続に限定した話であって、最初から「ヒト」の問題を度外視して論じたいのなら、コトは簡単であるに決まっています。くれぐれも、自己のリスクで事業を行ったこともない者の口車に乗せられることのないようにしたいものです。
3.後継者の育成
・さて、この後継者の「育成」問題ですが、例えばご本人が学校やセミナーでどれだけ学ぼうと、それだけでは、オーナー社長様ご自身として「納得がいった」となりそうには思えない、というのが本音ではないでしょうか。会社組織が異なれば事情も全く異なる訳で、極めて個別的な訓練が必要となることは間違いありません。そして、こういった訓練ができるのは、社長様ご自身だけである筈です。
・最初は「カバン持ち」からでも構いませんが、傍で見ていてアタマで「分かれば」よし、ともゆかず、実際にやらせるようにしなければ、身にはつきません。何より、心の持ちよう、「胆力」の見極めが肝要となります。
・また、高度成長期の時代感覚で、「オレの背中を見ろ」、はどうでしょうか。リーマンショックや新型コロナウイルスを例に出すまでもなく、ここまで事業環境が劇的に転換しつつある時代に、ある方の特定の一時代における成功体験を忠実に実践させることは、むしろ極めて危険、とさえいえます。人格形成とまでは申しませんが、心構えはともかく「事業モデルを継承させる」という感覚では、事業・企業の存続自体が危ぶまれます。何より、多くの大企業がバブル崩壊期に傾いたのは、これによるものでした。後継者様には、従って、創造的破壊を伴う「新たな起業」なのだ、と心得させるくらいで、ちょうどよいのではないでしょうか。
・以上を考えますと、後継者様育成への着手は、一年でも早い方が得策と思われます。