エグジットプラン 「会社の終活」①
今回から、残念ながら後継者がいない、または親族に事業を継がせたくない、という場合を考えます。いわば、「会社の終活」です。M&Aや廃業などが検討対象となりますが、まずは現状分析から。方向性の見極めです。
目次
- 事例 後継者がいない、または、なり手がない、事業に見切りをつけたい。
- 1.事業の清算価値・・・まずは足元の資産・負債状況
- 2.(実態)資産超過の場合・・・更に、損益の状況は?
- 3.(実態)債務超過の場合
事例 後継者がいない、または、なり手がない、事業に見切りをつけたい。
後継者難は深刻です。社長Aさんには一人っ子(長男)があり、大手企業に勤務していて、父の会社の承継には二の足を踏んでいます。何より、コロナ禍もあり、会社の将来に向けての展望に自信が持てなくなりました。どうしましょう?
とりあえず、気を許せる仲の飲み友達、Bさん(近隣他社の社長)に相談してみました。実は、全く同じ悩みを抱えている、と言われます。中小企業100万社廃業の危機(「大廃業時代」)は、現実味を帯びてきました。
Bさんは、懇意の税理士さんを通じて、自社を買い取ってくれる会社を探してもらっているとのこと。いわゆる、(中小)M&Aです。さて、どうしましょうか?
1.事業の清算価値・・・まずは足元の資産・負債状況
スタートラインは、これです。決して、消極的一方で言っている訳ではありません。
例えば、株式や投信に投資をしている場合を考えてみましょう。投資の日々の時価評価を気にする人は、少なくありません。一方、日々の結果に一喜一憂せず、長期投資と割り切って普段は相場も見ない、というスタイルもあります。
事業や会社経営も、同じ投資(経営権を行使しながらの投資、なので「直接投資」とも)ですから、発想として、あまり変わるところはありません。さすがに毎日や月次、はなくとも、決算期毎に「今、清算したら・・・」と考えるのは、決して悪いことではありません。具体的状態としては、しっかりネット(+-差引)で資産が残っているケース、債務超過のケース、期によって浮き沈みのケース、のどれかになります。これに、毎期の損益が黒字基調と赤字基調の場合を組み合わせると、計6つのケースがあることになります。
もう一つ、重要な観点があります。「実態」財務諸表としては、という点です。中小の事業をされている方の場合、決算そのものは「方便」、といったら言い過ぎかもしれませんが、それに近いスタンスの方も、少なくないのではないでしょうか。何よりも「節税」や、逆に「見栄え」最優先と考えるばかりに、決算が実態から離れて積み上がってしまっている、という場合もあるでしょう。ここでは、そうではなく、そういった種類の調整項目や、含み資産(簿価計上の場合の不動産評価損益など)・負債(簿外の前受金・預り保証金など)を戻し入れた「本当の」会社の姿としてどうか、という見方からする清算価値でなければ、そもそも意味がありません。
2.(実態)資産超過の場合・・・更に、損益の状況は?
各期の実態損益が常時黒字か赤字か、また期によって浮き沈みがあるか、の3パターンですが、概ね2~3年の(移動)平均で考えてみます。
① 概ね黒字トレンドの場合
・じっくり構え、着々と計画を進めればよい状況です。ただし、だからといって楽観もできません。
・業種により、また業態によって、自己所有オフィスに机と椅子、キャビネだけというなら、直ちに廃業して現金化も可能です。しかし工場や製造設備、あるいは倉庫を保有、などとなると、事情は全く違ってきます。不動産仲介、その他の業者に見積もらせて買い取らせればいいではないか、とお考えかもしれませんが、駅近のオフィスビルや戸建て・マンションと異なり、特定の仕様の工場、製造設備、倉庫となると、「マーケット」はない、と考えなければなりません。つまり、売れたとしても何掛けかの割引価値しか付かないのが普通です。そのまま使う、という同業種の買い手をみつけるコストとリスクがあり、だめならスクラップとしての価値で我慢せざるを得ないからです。それも急ぎで、となれば、「強制売却価格」として、更に割引きとなります。
・となると、ゴーイングコンサーン(継続企業体)としての価値で考えることができるなら、それがベスト、ということになります。つまり、M&Aによる第三者への株式譲渡や事業譲渡(親族外承継)か、経営者の招聘などです。詳しくは回を改めて考えますが、これには最長、2~3年はかかると覚悟することが必要です。更に、昨今知られるように、中小専門のM&A支援や仲介の業者が増えつつあるとはいえ、うまくマッチングが成立するかには「運試し」の部分が残りますし、相応のコストも覚悟する必要があります。
② 概ね赤字トレンドの場合
・あまり、猶予はありません。会社・事業体としての価値が、放っておけば目減りする一方な訳ですから。更に、実は役員報酬ゼロでやっている、などの水面下のマイナスの事情があるなら、より急ぐ必要があります。以前はともかく、事業採算として昨今は厳しい状況ということですから、買い手・引受け手がつきにくいのは間違いなく、早く動き出すべきです。また、保有資産を時価売却し、あるいは賃貸借契約を解除するなどして直ちに廃業し、清算できる状態なら、それも選択肢となります。
3.(実態)債務超過の場合
同じく、実態損益の2~3年の(移動)平均で考えてみます。
① 概ね黒字トレンドの場合
・景気や市場環境を見ながら、臨機応変な対応となります。当面、(実態)清算価値の向上が図れる状況(例えば、決算にまだ表れていないプラス要因がある、など)なら、同時並行でエグジットプラン(出口計画)を練っておき、タイミングを測る、という対応も可能でしょう。
② 概ね赤字トレンドの場合
・単期決算で(実態)赤字ならば、冷静に考えて、直ちに撤退を考えるのが「合理的」判断、ということになります。会社・事業体としての価値は、放っておけば目減りする一方な訳ですから。今後中長期で業績改善、清算価値の向上が見込まれる要因があるならば別ですが、そうでなければ一般的には買い手・引受け手も想定しにくく、可能な限り即決すべきです。直ちに廃業して清算するなら、傷の浅いままで「逃げ切る」ことも可能かもしれません。遅くとも、個人資産まで食いつぶす前には決断したいものです。
・いや、折角ここまで頑張って支えてきた事業。ここは踏ん張って、業績改善を図った上で処分したい。お気持ちは解ります。このケースでも、そういったお考えの社長さんは多いと思います。しかし、ここは冷静な判断も必要です。そうできるなら、もっと以前にそうなっていた筈では?
・悲観的なことばかり書いて、恐縮です。しかし、この項の表題(「3.(実態)債務超過・・・」)にあるように、貸借対照表(B/S)で(実態)債務超過ということは、積年の赤字が積み上がっている訳でして、それを(数年分合わせて)今後の数年でトントン、更に黒字転換するというのは、相当に困難な技です。